後遺障害1級に認定される症状と
後遺障害慰謝料、逸失利益相場
監修:弁護士 伊藤一星(弁護士法人宇都宮東法律事務所)
所属:栃木県弁護士会(登録番号:49525)
2020.8.27(最終更新日:2020.12.21)
交通事故などによる後遺障害で、最も重いと認定されるのが後遺障害1級。事故直後だけでなく、一生涯の日常生活に大きすぎる影響を残す1級は、認定によって慰謝料の金額に大きな差が出るものの代表です。
ここでは後遺障害1級に認定される症状を紹介し、それによって請求できる後遺障害慰謝料と遺失利益の相場、その他の保障を解説します。
後遺障害1級とは?
後遺障害1級は、植物状態やそれに近い状態、つまり常に介護が必要な場合のみだと思っている方がいます。ところが、常に介護が必要でなくても1級に認定されるものが多くあります。
まずは、どのような症状が後遺障害1級に該当するのかを見ていきましょう。
介護が必要な1級とは?
要介護の1級には1号と2号があります。
1級1号 | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
---|---|
1級2号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
1号の「神経系統の機能の障害」はいわゆる植物状態になってしまうことを差します。
2号の「胸腹部臓器」とは、肺や消化器などを差します。こちらは意識があるため、ご本人とご家族の心労が強くなります。 ちなみに、これらは2級も同じ文言で規定されていますが、自賠責基準の保険限度額は1級が4000万円なのに対し、2級は3000万円と1000万円もの差があります。診断書の書き方や表現方法でも認定結果が大きく変わることがあるので注意が必要です。
介護が必要でない1級とは?
常に介護を必要としない1級は、1号から6号まであります。
自賠責基準の相場は1,150万円、自賠責基準限度額(逸失利益も含めたもの)は3,000万円となっています。
1級1号 両眼の失明
失明とは、眼球の摘出から、明暗を判断できない、または明暗のみがようやく判断できる程度のものを言います。
具体的には、視力が0.01未満になってしまった場合を差します。
1級2号 咀嚼(食べ物をかむ)ができず、かつ、言葉を話すことができなくなった
流動食のみを摂取できる状態を含みます。
咀嚼機能に関する裁判例では、労働能力の喪失率および喪失期間が争われるケースがあり、裁判例によっては喪失率や喪失期間を制限するものもあります。
「言葉を話すことができなくなった」とは、4種の語音(口唇音、歯舌音、口蓋音、咽頭音)のうち、3種以上の発音ができないものをいいます。
1級3号 ひじ関節以上で両腕を失った
「ひじ関節以上」で失ったものとは、以下を指します。
①肩甲骨と上腕骨を離断(切り離された状態)
②肩関節とひじ関節との間を切断
③上腕骨と橈骨および尺骨とを離断
1級4号 両腕を全く使えない状態になった
肩関節、ひじ関節、手の間接のすべてが硬直して手指の全部が使えなくなったり、完全麻痺となったりするものです。
硬直とは、関節が全く稼働しないか、またこれに近い状態(健側に動かせる範囲が10%以下)に制限されたもの。肩関節の場合は、上腕間接が癒合して骨性硬直していることがX線写真により確認できるものも含みます。
間接の機能障害の認定は、原則として多動運動(他者が動かすこと)により測定されます。
1級5号 ひざ関節以上で両脚を失った
ひざ関節以上で失ったものとは、以下を指します。
①寛骨と大腿骨を離断
②股関節とひざ関節との間において切断
③大腿骨と脛骨および腓骨とを離断
1級6号 両脚が全く使えない状態になった
股やひざ、足首から下が完全麻痺している状態です。足を動かせる範囲が10%以下に制限されたものを含みます。
後遺障害1級で受け取れる後遺障害慰謝料と遺失利益
後遺障害で請求できる代表的なものに後遺障害慰謝料と逸失利益があります。
後遺障害慰謝料は後遺障害が残ってしまったことに対して請求できるもの。逸失利益は後遺障害により労働に支障が出る(=収入が減少してしまう)ことに対する補償です。
後遺障害慰謝料の相場
後遺障害1級で請求できる後遺障害慰謝料の基準には、「自賠責保険基準」、「任意保険基準」、「弁護士基準」の3つがあります。任意保険については推定値となりますが、まずは比較してみましょう。
ここでは、日常的な介護は必要ないケースを例にします。
保険金 (共済金)基準 | 任意保険基準 | 裁判所基準 (弁護士基準) |
---|---|---|
1,150万円 | 1,600万円 | 2,800万円 |
このように、自賠責基準、任意保険基準、裁判所基準(弁護士基準)には大きな違いがあります
しかも裁判所基準は、これまで積み重ねられてきた過去の裁判例における賠償額の目安にすぎません。実際には事案ごとの個別な事情を考慮して慰謝料額が調整されます。また、過失割合も大きく関わってきますので、慰謝料の請求には経験豊富な弁護士への依頼が重要ということです。
逸失利益の相場
逸失利益は後遺障害により労働に支障が出る(=収入が減少してしまう)ことに対する補償です。
1級の労働能力喪失率 100%
逸失利益 =
前年度の年収 × 労働能力喪失率(100%)
× ライプニッツ係数